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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制
「まあ馬鹿だよな」
「ていうかクズじゃん」
「うるせえお前には言われたくねえ千歳の方がクズ」
「いやいいけど私は前田さんもクズだと思う」
「平気で悪口言うよなお前」
「あ、別に共感とか要らないから」
「じゃあ言うなよって話だろ。で、俺になんか言いたいことあったんじゃねえのか」
スマホの画面は前田さんとのLINEみたいで、その返信までばっちり見えてしまった。《今日俺の家来れば》って一言、それは私に向けたものと真逆で。
「前田さんにはそういう態度なんだよね。ほっとけないならしょうがない、か。でもさ、嫌なら嫌って言ってくれればいいじゃん、お前はもう切るわって、別に私そういうの気にしな、」
「お前には関係ねえよ」
「関係ないってことないと思う」
「なんも言うことねえんだって。つうか連絡しなくなって怒るくらいだったらお前恋愛とか無理だろ」
「……そうじゃないって、だから言いたいのは」
言いたくないなら言わなくていい。理由なんてもうどうでもいい。身体で繋がったらもう普通の友達には戻れないの? 昼食を一緒にとる仲間にもなれないのかとら思うと無性に寂しい。
なんで前田さん一人に私と瑞樹の距離を広げなきゃいけないの。分かんない。全然分かんない。
「聞きたくねえよ。もう来んな、うちには」
「はー、じゃあもう分かった行かないから!」
「おう」
瑞樹が離れていく。階段を下って頭のてっぺんさえ見えなくなって、はっと我に返ってやっと、てのひらに食い込んで爪の形が出来ていることに気付いた。
言いたいこと、なにも言えなかった。
情けない気持ちになってくる。瑞樹が言いたくないこと言わないのはいいけど私は言いたいのに言えないとか、普段はなんでも文句言えるくせに自分の感情を言葉にしようとすると声が詰まるみたいに表現出来なくなって。
ムキになるとか一番駄目なやつだって頭では理解してるのにどうしてもう行かないとか言ってしまったんだろう。
さすがに柳瀬のところに戻る気にもなれなくて、教室に向かった。今も尚賑わい続ける学園祭真っ只中、服も駄目にしたし問題も起こしたしで「橘さんは裏方やってて」と厨房に追いやられた。
料理は出来ないけど辛うじて淹れられる珈琲が救いで、なんとか学園祭初日を終えられた。