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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制
一通りの軽い片付けが終わってから前田さんに声をかけられ、少したじろぐ。一歩後退りする私に詰め寄ってくる彼女の表情は強く眉根を寄せていて少し怖い。
「……なに?」
「ミッキーに会わないで」
「ねえそのミッキーってのやめてよなんかムカつくから」
瑞樹は瑞樹でしょ。
「じゃあ、浅木君に会わないで。橘さんのせいで私ずっと無視されてたの。やっと話を聞いてもらえた、だからもう邪魔しないで?」
「……瑞樹ってあんたのこと好きなの?」
「は? 当たり前でしょ、だから本当もうセフレとか要らないって言ってくれたの。橘とも会わないってね」
「本当に瑞樹が橘と会わないって言ったの?」
「そうよ」
校内で顔合わせるの当たり前だし学年変わったらクラスメイトになるかもしれないのに、瑞樹がそんな馬鹿なこと言うとは思えないけど……しかも瑞樹に橘とか苗字で言われたことは一度たりともない。
「承諾してくれなかったら私本当に言っちゃうから。山中先生と橘さんが不純異性交遊してましたってこと」
「ねえそれ意味分かって言ってんの?」
「分かってるよ? なんで橘さんが退学にならなかったのかぜんっぜん納得いかないし!」
こっちの台詞だよ。
お前がいつまでも学校にいられることが不思議でしょうがないわ。噂では親が金持ちで学校を黙らせてるってのもあるらしいけど、実際はどうだか。
「分かった、極力会わないようにする。それでいい?」
「分かればいいのよ」
「……瑞樹傷付けたら許さないから」
「あは、おかしなこと言わないで、傷付けてたのは橘さんでしょ?」
「そう、かもね。瑞樹待ってんじゃないの、もう帰んなよ。後の掃除は私がやっとくし」
「ふうん、じゃあお言葉に甘えるね」
うざいからとっとと消えろ、とはさすがに言うべきではないと思っただけで。お言葉に甘えるなら礼くらい言ったらどうなんだ、とか考えたりして、我ながら性格悪い。
掃除道具入れから箒を持ってきて、教室の中央で立ち止まる。別に私がやらなきゃいけないことではないけど、前田さん以外の人達に迷惑をかけたことは詫びたい。せっかく楽しんでる文化祭を壊すような真似をしたことは自分の中で納得のいくことではなかった。