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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制
ーー掃除が終わって、外はあっという間に暗くなっていて。でも明日は後夜祭もあるしもっと暗いのかも。一般の公開があるから始まるのも30分程早いし。
教室でぼけーっとしていると窓をコンコンと叩かれた。はっと我に返ってそこを見ると、疲れ切ったような表情の柳瀬がいた。
「いないから帰ったのかと思ったよ」
「私ずっと教室にいたけど……」
「あれ? さっき見たときは前田しか……」
「前田さんは帰ったよ、瑞樹と」
「そっか」
「私じゃなくて今度は前田さんだよ。瑞樹とそういうことするの。あの子絶対容赦なくするよ、どこでも、だって、あの子のせいなのに……柳瀬は腐っても教師なんだから前田さんの心配した方がいいよ。ていうか瑞樹のことも気にかけてよ」
「落ち着け、橘」
「柳瀬も、どうせ瑞樹みたいにどっか行くんでしょ、可哀想な生徒に優しくしててもどうせそのうち、」
「橘」
コト、と音がした。柳瀬が持っていた花瓶を机に置いた音だ。それで我に返り、言ったことを後悔した。
「ごめん忘れて」
「もう暗いし送るよ」
「……」
「ぼけっとしてないで帰る準備しな」
「あ、うん」
いつもと変わらない対応の柳瀬に少し安堵した。引かれたんじゃないかと不安になったけど、あんまりそういうの感じにくい人なのかも……? もしくは普通に普通であることが大人の対応なのか、教師として優しいのか、或いはーー……いや、それはない。
準備を終えて学校を出る。途中で響先生とすれ違ったけど「気を付けてね」としか言われなかった。まあ、別に教師と生徒が並んで歩いてても変に勘繰ることはないよなあ……教頭とか他の男性教諭はそういう疑いをかけてきやすいけど。山中の件から敏感になっているようで。
「学校出て右にある公園の近くまで行っててもらっていい? 車用意してくるから」
「分かった」
確かに学校の敷地内で乗せてもらうわけにはいかない。