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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制
薄暗い公園の門らしき石の柱に背中を預け、空を眺めながらぼうっとしていると目の前に車が来た。黒のセダン、これが知らない人だったらちょっと怖いかも……と思っていると開いた運転席の窓から声をかけられた。
「乗って」
ひとつ頷き、反対側に回って柳瀬の左横のドアを開ける。
「躊躇なく助手席来るよね」
「あ、ごめん後ろの方が良かったかな」
「別にいいけど雑誌散らかってるから退かして乗って」
「分かった」
雑誌を手に取りながら乗り、ドアを閉めると車は発進した。柳瀬の横顔をこの距離を見るのはあんまりないな、密室……いや、よからぬことを考えてしまいそうな自分を封じるように雑誌を開く。
「なんだ、エロ本とかじゃないんだ」
「こら、勝手に見ない」
「いいじゃん。麻雀雑誌とポーカー雑誌とゴッホの絵画集と……ん? 画集? イラストだ」
「ああ、その画集はうちの生徒が出したものなんだよ。絵画教室の方のね。でもどうしてもその子イラストしか描かないからデジタルの方で描いてみたら将来仕事の幅も広がるだろうって言ったらこれだよ」
「超絶すごいじゃんその子。誰? 浅柄の生徒?」
「いや、三津賀学園(ミツガ)の生徒」
「三津賀って制服可愛いよねー、お嬢様お坊っちゃま学校のイメージ。それでいて進学校。浅柄とは真逆だ」
浅柄の半分はギャルとヤンキーで埋まってる。残りは唯一の真面目な生徒。私は別にどちらの枠にも入っていないけど入らないから余計にどちらにも毛嫌いされてる感じ。
不思議なのは真面目ぶってる普通の生徒よりヤンキーの方が成績が良かったりするアレだ。まあ三津賀にはなさそうだな、そういうの。
「制服可愛いって言っても男子生徒だから関係ないけどね。グレーのブレザーだし。浅柄と三津賀が対極的なのはなんとなく分かるけど」
「普通に浅柄の紺のブレザーよりいいじゃん。ネクタイは深い赤だしシャツの首元にある紋章がお洒落っていうか。まあでも私は学校指定のやつって嫌だけど」
「お前が三津賀のお嬢様だったら校内であんなことしないだろうね」
「お嬢様だってやることはやってるよ」
「校内で」
「先生に手出すクズ女子生徒いるんじゃない」
「まんま橘じゃん」
「……クズ生徒がいるとクズ教師もいるよね」
「誰のことかな」
「先生だよ、柳瀬先生」