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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制




赤信号で停止していると、対向車線の車の青白いライトが眩しくて目を閉じた。

「橘に先生って言われると少し腹立つんだよね」

「え、傷付く。もう教師やめたら……?」

「冗談だよ」

「私も冗談だったんだけど。ねえ、先生は特別授業とかしてくれないの?」

「しないよ」

「せめてなんの授業? とか聞いてよ」

「お前の言いそうなことが最近は少し分かってきた」

「卑猥な生き物だと思われてそうで怖い」


窓の外を見ると、真っ暗な中にぽつぽつと灯るライトが辺りを照らしていた。街中より静かな光で、無性に寂しくなる。眩しく毒々しい繁華街に目や脳が慣れてしまったのかも。


「男はもっと卑猥だよ。怖い生き物だと思うけど」

「私メンヘラガールになってもいいかな」

「良くはないかな」

「……だよねえ。ねえ、なんで今日家に連れてってくれるの? 普通に有り得ないでしょ」

「タブーだとは分かってるんだけどね。お前の家の事情も知ってるし、少なからず危険があることも分かってるつもりだよ。なんで日々浅木と夜中遊んだりしてるのかも」


運転中だからかこちらを向かずに話すのが妙に色っぽくて、横目でチラリと見てからすぐに目をそらした。


「なんで色々知ってんの?」

「これでも担任。それを抜きにしても橘が小さい頃何度か家にお邪魔させてもらったことがある」

「んん? 初耳なんだけど、なんで?」

「山中先生と一緒に絵画教室の勧誘とか、近所付き合いで」

「柳瀬近所に住んでたの?」

「15までだけどね。寮に入ってからあの辺りからは離れたし、絵画教室に行くのも長期の休みだけ」

「そうなんだ、びっくり。それで色々知ってるんだ……ちょっと納得」

「これでも可愛がってたんだよ、小さい頃の橘。覚えてないだろうけど」


全然覚えてないよ。


「それで私のことガキっていうんだ?」

「実際まだガキでしょうよ」

「そうかも」





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