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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制




「薬効いて良くなったら学校おいで。無理はしないように」

「柳瀬」


玄関に向かった彼を呼び止めると、振り返って「なに?」と返される。


「行ってらっしゃいのキスは?」

「大人しくしてな」


それだけ言うと柳瀬は家を出た。鍵を閉めて行ったけど中からなら簡単に出られるのに、とか思ってしまう。

柳瀬からしたら私は見ず知らずではないかもしれないけど、一人家に放っておくなんて自分の家を荒らされたらどうしようとか考えないのかな。

いや荒らさないけど。
それでもそういう女の可能性は無きにしも非ずで。


腹痛が治るのをじっと待っていた。テレビを見てもつまらないし、ぼうっとしているとお腹が鳴った。痛くても腹は減るのか。

柳瀬が作っていた卵焼きと炊飯器に入って保温になっていた白米。十分で、しかも美味しい。卵焼きが美味しく出来る男の人は魅力的だなあ。


「……」


一人で食べるのは慣れてるけど、慣れない家で食べるのはやっぱりなんか変な感じ。

食後は食器を洗っておいた。なにもしないで放置っていうのはさすがに気が引ける。

その頃には腹痛はだいぶよくなっていた。お腹が痛いというよりは腰が少し重い程度で、これなら動ける。


学校行った方がいいのかな。
文化祭で私がやれることなんてもう無いだろうけど……。


ぼんやりと天井を見上げていると、スマホのバイブ音が響いた。瑞樹からメール。そういや柳瀬が家を出てからもう結構時間経ってるんだなあ。


「てか……LINEじゃないんだ」


件名は《大丈夫か?》
本文はナシ。

何事だ。

連絡が全然なかったし、話もしなかったのに、いまになって急にメール送ってくるなんてどういうこと。片付いたってこと? 前田さんとの関係。


《なにが?》と打ちかけてやめて、《大丈夫》と返事をしようとして、やっぱり消した。おかしいな。

結局、10分くらい悩んで返信した言葉は《なんで?》になった。間違ったかもしれない。……けど、私の感情は多分これで合ってる。


少ししてメールではなく電話がかかってきた。


「もしもし」

『よお』

「うん」

『いまどこ?』

「久しぶりだよね瑞樹」

『どこ』


なぜその質問。






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