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甘蜜トラップ
第3章 感情と強制




「橘さん」

「え?」


教室を出てすぐ、これから帰ろうというところで呼び止められて振り返ると、そこにはクラスメイトの男の子がいた。なんとか君。名前が思い出せないな。

黒髪で制服も着崩していない、加えてバスケ部だかサッカー部だかそんな青春エンジョイ系男子。顔は普通より良いくらい。


「橘さん、柳瀬先生とよく話してるよね」

「?」


「あ、あれ? 違った?」

「さあ……そんなに話してたかな」


「僕の気のせいだったならごめんね! 美術室に忘れものしちゃったみたいで鍵貰おうと思ってたんだけど職員室にもいないからさ」

「それでなんで私?」

「よく話してるからどこにいるか分かるかなあって思ったんだけど。勘違いだったね」

「お役に立てず」


柳瀬がどこにいるか、とかなんで私が把握している感じになっているんだろう。知ってたらそれはそれで怖い。そもそも美術の授業もなく部活もない日なんて話すこともない。


「じゃあ僕また探してみるから、またね」


爽やかだなあ。
まるで別の人種に思える。闇属性とか光属性とかそんなふざけた種族が存在するじゃないかってくらい眩しい。


「待って」

「え?」

「いや、美術室の鍵なら職員室で借りられるでしょ? 忘れ物なら柳瀬いなくても大丈夫だと思うけど」

「……そっか! ありがとう」

「うん。じゃあ」


結局名前も分からないままの彼はそのまま職員室へと駆けて行った。そんなに急がなきゃいけないようなものを忘れたんだろうか? 今日授業なかったのに?

変なの。



帰り際、なんとなく裏階段に向かった。特になにが目的でもないけど、あわよくばーー……








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