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甘蜜トラップ
第4章 惰性と欲求
瑞樹。
瑞樹に迷惑をかけるわけにはいかない。
どうしたらいい?
処理を終えて理科準備室を出ると、彼は清々しい顔で足早に帰って行った。あんな奴に利用されている私って最悪だ……。
帰りにまた彼と遭遇しないよう時間を空けるため、裏階段に向かった。4階の窓から自転車に乗って校門を出て行く姿が見える。
「はあ」
「ため息?」
驚いて振り返ると、そこにはいま一番会いたくて会いたくない人がいた。
「柳瀬か」
「なんだその嬉しがってからの嫌がり方は。傷つくなあ」
「嘘くさい」
「なんかまた男のニオイ漂わせてるけど、浅木とするなって言わなかった?」
柳瀬。
ほら、いつも通り。
まだ3日だよ。根を上げるには早過ぎるよ。
でも柳瀬の顔を見ると急に自分が保てなくなるみたいで怖い。帰らなきゃ。
足を一歩、階段の下りの方に向けると「ほらどこ行くの、落ちちゃうよ」と私の腕を掴んで引き寄せる。
抱きしめられる形になったものの、柳瀬の右手には火のついた煙草があった。
「煙草、」
「大丈夫、焼かないよ」
「……見えちゃうよ、外から」
「そんなに俺から離れたいわけ」
「いや、っそうじゃなくて」
「ふうん?」
踊り場の隅っこに引っ張られて隠れた。確かに端っこなら窓がないから外からは見えない。
「浅木じゃないね」
「……っ、瑞樹とした」
「嘘」
「嘘じゃない。瑞樹とは身体じゃない付き合いをするって思った途端にしちゃったの」
「あー」
「ごめん、なさい」