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甘蜜トラップ
第4章 惰性と欲求





怒られると思った。抱きしめられた身体を離されるんじゃないかと思った。でも柳瀬は「そりゃ悪い子だなあ」と言って私の頭を撫でたから、なにかおかしくなってしまったみたいに涙がこぼれ落ちて。


「ごめん、違うこれは」

「ていうかいつの話? 今日の話? 浅木は今日は学校休みだけど」

「えっ」


瑞樹休みなの?
前田さんも今日休みだけど。
偶然?


「お前ら本当に昼飯食うのやめたんだね。可哀想な橘には先生が一緒に食べてやろう」

「要らない! 恥ずかしい!」

「ふはっ、冗談だよ。でも俺は橘が必死すぎて悲しい」

「だって!」

「泣き止んだね」

「っ」


橘、と柳瀬が呼ぶ。
怖いくらい、安心した。

嫌だったこと痛かったことこれから先の不安。
一瞬だけでも忘れられるような気がした。


「柳瀬」

「ん?」


柳瀬から離れて、隅っこに座り込んだ。
壁に背中を預けて。

そうすると柳瀬は私と対面になるよう5階から下りになっている階段に腰掛けて煙草を吸っていた。


「私新しいセフレが出来たよ」

「へえ」

「興味ない?」

「本気で言ってんの?」


目を合わせない。
と思ったら、柳瀬はじっと私を見ていた。なんとなく怖くなって思わず目をそらすと、「逃げんなよ」と呟いて「橘」と私を呼ぶ。

今度視線を交わらせれば、逆に外せなくなった。


「……これからあと27回、学校がある日は毎日する」

「毎日? なにそれ」

「欲求不満なビッチ女子高生? だから」

「そんな風に言うな」

「本当のことだもん」

「身体壊すよ、そんなのやめなさい」


怒るんだ、柳瀬。
先生だもんね。

言ってしまえたら楽なのに。


「柳瀬にしか頼めない。柳瀬じゃなきゃ駄目。一回でいいから私だけ見て私を抱いてほしい」

「なんでそうなる?」






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