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甘蜜トラップ
第4章 惰性と欲求
「……」
「駄目?」
「駄目とかそういう次元の話じゃないだろう。生徒がそんな馬鹿なことを言うんじゃない。それから他の男子生徒とのことも今後はやめるように」
「柳瀬?」
いつもの柳瀬っぽくない。
なんだ? 変だな。
すると柳瀬は眉根を寄せ、静かに人差し指を立てて自分の口元に当てる。シーっと口を動かし、そのジェスチャーで私に訴えた。
なんなの……?
「それと、裏階段の使用は非常時のみと決まっている。違反した生徒には相応の反省文を書いて提出してもらう。二度と通らないように」
「?」
「はい、は?」
「は、はい」
……?
意味が分からず首を傾げたまま停止していると、静寂の中でパタパタと軽い足音が聞こえた。華奢な女子生徒のように思える。
柳瀬は下におりて人の気配がないか確認しに行き、少しして戻ってきた。
「屋上、入る?」
「は?」
「ほら、来るの来ないの」
相変わらず私の理解が追いついていないものの、柳瀬は躊躇なく屋上の扉を開けた。
そもそも屋上なんて閉鎖されていて当たり前だと思っていたのに、開いているものなんだな。危なくないのか。自殺者なんて出たらどうすんの? なんて無駄な心配をしてしまう。
屋上に足を踏み入れれば、暗くなった空が広がっていた。柳瀬は私に早く帰れと言うべきでは?
「で、なんだったの?」
「盗聴されていたみたいだけど」
「は、嘘」
「足音がしたでしょうが」
「なんで気付いたの?」
「俺は勘が良いんだよ」
そんな曖昧な理由で納得しろというのか。
でも確かに足音は聞こえた。
「誰だったの?」
「さあ。女子生徒だろう。橘は心当たりあるんじゃないの」
「あるわけ……」
華奢な女子生徒?
前田さん? 今日休みだけど。華奢ではないが私や柳瀬に近づく特定の人物なんて一人しかいない。柳瀬だって心当たりあるくせに私に聞くなんて狡い。
「柳瀬が私に予約したんでしょ」
「?」
「先に言ったくせになかったことにするのは卑怯じゃない?」