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蝶が舞う時
第7章 発端
「どんな事情が有るにせよ、一旦帰宅することを勧めましたが、拒否しました。」

「一応高校は卒業している。だが、未成年なので先行きに不安が残る。」

「そういった理由で、私の会社でとりあえず働いて貰うことにしました。」

「但し、条件は親御さんと連絡を取ることだったのですが、一向にその気配が無いので、今回菜摘さんには内緒でお父さんと連絡を取った次第です。」

俺は筋書きを一方的に並べた。


「菜摘が大変ご迷惑をおかけしました。」

「実は、菜摘の実の母が三年前に癌で他界しまして、その時かなり落ち込んでましたが、一年前に私が再婚したことがきっかけで、かなり反抗的になり、今の家内や連れ子とは全く馴染まず、大学進学も放棄してしまいました。」

「学校も無断欠席が続き、一時卒業も危ぶまれましたが、何とか卒業出来た次第です。」

「卒業しても菜摘の反抗的な態度が変わらず、家内との喧嘩が常態化したため、不満が有るなら家を出ていけ!と叱ってしまいました。」

「その夜に菜摘は家を飛び出したみたいです。」

俺は納得しながら、

「その後、菜摘さんとは連絡を?」

「何回も連絡しましたが、携帯の電源をオフにしているようです…」


俺はしばらく煙草を吸ってから

「菜摘さん、寂しかったでしょうね。」

「だと思います。」

「私の再婚が更に菜摘を追い詰めたと…」

お父さん、仰る通りです。

「ただ、私も寂しかったし、家事も全く出来ないので…」


俺は何も反論しなかった。

「判りました。とりあえず菜摘さんは元気で働いてますよ。私の方からもお父さんに連絡する様に何度も伝えます。」

「ご迷惑をおかけします。宜しくお願いします。」

菜摘の父親と別れ、来た道を戻る。

(この親父、全くダメだ。父親としての体面を見せるも、役割を果たさない。菜摘の帰る家は確かに無いな…)

俺は高速道路に入り、スピードを上げて菜摘の待つ家に向かった。


「ただいま、菜摘」

「あっ、おじさんお帰りなさい。遅かったね。」

「ゴメン、会議が長くなって…」

俺は菜摘を抱きしめた。

「菜摘、今日から俺は菜摘の保護者兼恋人だからな。」

「保護者は余計なんだけどなぁ…」

「二十歳になるまでだ。」

「じぁ…二十歳になったら…」

「何だ?」

「菜摘のひ、み、つ」


菜摘…それは出来ない…
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