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第8章 わだかまり…

白い家、奈々美への欲望を隠さない落書きでショックと嫌悪感があっても奈々美は不意にぐうぅっと鳴る事にため息。

家に戻れば落書きにあたしが関係していると周りの人は白い目で見るに違いないわ…
妊娠とか書かれまだわからない事なのにもうあの家には戻れない…
結城さんはあの落書きを消したら契約を解約するって言ったわ…
あの家を出る為に荷造りを始めていたのに解約するって言われたら焦ってしまうなんて…
このホテルに帰ればいいって結城さんは言うけど何故か結城さんに後ろめたさがある…
それなのにあたし仕事をする結城さんをジッとみてしまって変に思われたかもしれないのに…

ぐうぅ、お腹がまた鳴り彼女はまだ服を着替えてもいなかったので夕食を買いに出かける事にした。
フロントでキーを預かってもらう時に彼女はあえて結城を避け隣の従業員に手渡す。
従業員は一瞬目線を結城に向けるが奈々美に営業スマイルで言葉を添える。

彼女が振り返ると従業員は結城に気にするなという意味合いで優しく肩をポンポンとされていた。

あの人に迷惑かけちゃったのかな？
だけど結城さんへ普通に喋る事が気まずくて…

秋の夜、１９時を過ぎて暗く街灯や車のヘッドライト、店の灯りを頼りに歩かなくてはならない。
ヒールの音がコツコツとやけに響くような気がするが帰宅を急ぐ人達の話声にかき消される。

数分歩くとコンビニがあり彼女は入って行き空腹の為にパスタ・おにぎり・烏龍茶・サンドイッチ・肉まん、適当な漫画雑誌を買い１０分で出て再び歩く。

スイートタイムのフロントを避けたい気もするがそこを通らなければキーがもらえないので彼女はうつむきがちに従業員に「戻りました」と告げる。

従業員は聞こえないように小さく咳払いし結城をちらりと見るが、「お客様が話かけてくれたのだから対応しなさい」という意味合いで首をふられた為に彼は彼女にキーを渡しおかえりなさいませと言った。

奈々美が振り返らずエレベーターに歩いていく。

『オーナー…無理ですよ、俺は…』
従業員が首を振る。
結城の立ち振る舞いに奈々美を特別にみている事がわかる為に目の前でオーナーを差し置いて喋る事など気が引けるという顔をしていた。
もちろんキーを渡す事は仕事でありお客様との接客は大事で分け隔てなく出来るのだが今の２人には何かある、些細な事でも気をつけなければという考えなのだ。