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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第4章 底にあるもの
 “──…日嗣様……っ!!”
その瞬間、禊の頭の中に昨晩少女が漏らした甘酸っぱい声が甦り、その一瞬を答えあぐねる。逆にその数秒を気にも止めず、主に忠実に応えたのが童だった。
「──いるよ。あ、でも何て言っていいか分かんない。いた、の方が正しいかもしれないけど……だけど淡島ではこういう話、基本的に禁句だから。特にあのお方の話はみんなしない。──しちゃいけないんだ」
「……それって……」
どういうこと?
「…………」
少女は他に言葉を何も浮かべることができないまま、姿見に映る自分の顔を見遣る。可愛くない。
 ただ心の中には、一つ一つを拾うのが難しいくらいに混ざり合った、たくさんの感情が渦を巻いているような気がした。
 それが色を無くして、頭の中を埋め尽くして、だから言葉が出てこない。
 ──あの黄金(こがね)の瞳に映された女性は、一体どんな女性だったのだろう?
──あの凜とした声が囁く甘い言葉は、その女性をどれだけ虜にしたのだろう?
──あの優しい指先はきっと、更に優しく、自分とは比べ物にならないくらい、その女性を慈しんだのだろう……。
 そう考えれば考えるほど、頭の中は真っ白になっていく。
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