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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第23章 天地開闢
 それが優しいという言葉で表現できるかは知れない。根が小心者だっただけかもしれないし、或いは──もし色々な場面で人並みに恵まれていたならば、本当に優しい人間だったのかもしれない。
 『……男は、後悔していた』
「……」
 あの子にはあの子の世界があったのに。たった一時の思いで、自分がそれを蹂躙してしまった。
 あの子の父母はどうなるのだろうと、自分の老いた両親を想った時に初めて気付いた。今は何を語るべきか分からないが、戻って、何かを伝えた方がいいのではないか。それは、自分にしかできないことだったのではないか。今なら鞄だって、忘れ物で済ませられる。死ぬだけの勇気があるならやり直せないか。まだ戻れる。戻れる……のなら、まだ、生きていてもいいのではないか。
 ……だが、……何を? 何をどうやって語る?
 それが本当に分からなくて迷って、ためらって。その思考がどこかに至る前に、一歩一歩を重ねてしまった。池の淵まで来てしまった。
 助けてくれる人間はいなかった。声を掛けてくれる者もいなかった。古びたポスター一枚。あとは看板も見えない。越えられない柵もなかった。
 そうして水に呑まれて死に近付いて、男は間際に感じた光の中で、神に祈った。
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