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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第2章 神隠しの行く末
外は不安定な天気模様。蛇がとぐろを巻いたような黒い雲が出てきていて、どしゃ降りになりそうだった。
それで男は、今になってあの水色の傘が堪らなく……堪らなく欲しくなった。
傘を開いて家路につく、幸せな人間のふりをして生きたかった。
しかし男は山に分け入り、無事自ら命を絶った。遺されたのは、向かい合う電車のシートと茶色の書類鞄だけ。
そして幸運にも二つ目の空席を見付けたお節介な婦人は、それこそ誰かの忘れ物だろうと茶色の鞄を脇に避けると今度こそどっかりとそこに座った。それから自身が降りる駅の駅員に鞄を預けて、数日後それが“心中”を謀った男の遺品であることを噂で知った。
──私見たのよ、向かいのあの鞄、絶対女子高生よ! イヤね~、本当にイヤだわぁ!
やがてそれが周知の事実になると、消えた少女は男の思惑通り男の人生の最期の花となって一時おおいに世間を騒がせたが、時が経つに連れ人の口からも消えていった。
【2】
そして少女は再び……男達の花となるべく世界をうつろう。
かすかに戻った意識の中で少女が最初に得たのは、空気が水に包まれるこぽこぽという心地好い音だった。
それで男は、今になってあの水色の傘が堪らなく……堪らなく欲しくなった。
傘を開いて家路につく、幸せな人間のふりをして生きたかった。
しかし男は山に分け入り、無事自ら命を絶った。遺されたのは、向かい合う電車のシートと茶色の書類鞄だけ。
そして幸運にも二つ目の空席を見付けたお節介な婦人は、それこそ誰かの忘れ物だろうと茶色の鞄を脇に避けると今度こそどっかりとそこに座った。それから自身が降りる駅の駅員に鞄を預けて、数日後それが“心中”を謀った男の遺品であることを噂で知った。
──私見たのよ、向かいのあの鞄、絶対女子高生よ! イヤね~、本当にイヤだわぁ!
やがてそれが周知の事実になると、消えた少女は男の思惑通り男の人生の最期の花となって一時おおいに世間を騒がせたが、時が経つに連れ人の口からも消えていった。
【2】
そして少女は再び……男達の花となるべく世界をうつろう。
かすかに戻った意識の中で少女が最初に得たのは、空気が水に包まれるこぽこぽという心地好い音だった。