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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第23章 天地開闢
 やがて潮の香りに違う匂いが混ざり──おそらくこの世界で唯一の汀(みぎわ)に辿り着いたとき、神依は目と仕草とで男にねだってその浜へと下ろしてもらった。
 さほど広くはない小島。砂と薄い波の上に小舟が一艘停められていたが、その浜でさえこの大海に呑まれないのが不思議なほどに小さい。砂と岩と土と、境を数歩跨げばすぐに陸地になる。
 足を伸ばせば潮風に裳裾がふくれ、それよりわずかに遅れて木々が梢を揺らし、萌草の絨毯が靡(なび)く。先程いた洞からそのまま移したかのような花の裾は島の縁まで広がり、新たな主の漂着を言祝ぐように咲き乱れて、多彩色の袖を振っていた。
「……」
そしてその草花に囲まれた、島の中程にあるのは──
「やっぱり……」
記憶の中にあるそれよりも遥かに真新しい、白肌の木目と檜の香り。萱も注連縄も重ねた年月が無いぶん色薄く、趣の中に若さと浅さを感じる。
 ──八尋の大社。
 「神依」
「日嗣様……」
後ろからやってきた男に振り向けば、その背後の浜辺でやはり海と空とを眺め何かを見送る、一組の夫婦の姿が見えた気がした。
 広大な海に抱かれ、悠久の空に覗かれて存在するたった一つの小島。
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