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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第24章 稲依姫
私には出過ぎたことでした、と禊が頭を下げれば、猿彦は口元の笑みを少しだけ潜めて軽く頭を振った。
「異界に渡って、全部が全部元通りになって帰ってくることなんて無ぇさ。もしンな人間がいたら、そいつは尋常じゃねえ」
「猿彦様……」
「孫だって分かってるんだ。だから……楽しいとか嬉しいとか、そういうことを自分で探しに行ってんだ。そういうことが自分を救ってくれるって、分かってる。だからまあ、しばらくはゆっくり養生させてやってくれ」
どんと胸元に拳を置かれ、禊は笑んで無言のまま頷く。癒すのは、体ではない。

***

 ──今から少し前、ある日の早朝……八尋の大社の前に、不可解なものが放置されているのを奥社の巫女数人が発見した。
 やけに古びた造りの、野暮ったい舟。辺りは一夜海になったように海水がうっすらと残り、舟の中には一組の男女が横たわっていた。
 産着のように真白の衣を纏う、男と女。
 その姿形は二人共に、最後に目にした時とは随分変わっていたが──それが誰か瞬時に理解した巫女達は直ちに人を方々に遣わせ、報せを聞いた禊と童もすぐさま駆け付けた。
 長い命を持つ身にも、待つにはあまりに長い月日だった。
 雪は花へ、花は雨へ……季節が変わるにつれ、嘆き、諦める者達もいた。苛立ちや焦燥を隠さぬ者もいた。
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