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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第5章 いざない
先程まで、確かに手を繋いでいたはずの洞主の姿は無く、少女は辺りを見回すがそこには本当に誰も居ない。誰もいないどころか、そこには何も無い。
(……)
しかし──本当にそうなのだろうか。
(……違う……ここは)
よく目を凝らせばその白い空間には、一つ一つを拾うのが難しいくらいに混ざり合った、たくさんの何かが渦を巻いているような気がした。
 それが色を無くして、すべてを埋め尽くして、だからここには世界がない。
 それは虚無ではなく、混沌だった。
 『──…!!』
そして少女がそう認識した途端、あの織り機に掛けられた糸のようにその白い空間が裂け、乾(けん)が生まれる。あちらこちらで渦を巻く、海と大地を混ぜたような流動する坤(こん)が生まれる。
 真っ白な糸の束がその色を帯び、少女を包む巨大な繭を作るように上と下とでぐるぐると世界を織り成していく。
 少女は水の中にいるような不思議な浮遊感の中、丸く織られていく世界を見回した。まるで蛇がとぐろを巻くように、丸く、丸く。
 周りでは歌うような抑揚のある風の音と軋むような木機の音が混ざり、髪や袖、裳裾がそれらを孕んではためいた。
 何かが生まれる喜びと、胎(はら)を裂かれる痛みの音──。
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