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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第24章 稲依姫
「もう何とでも言ってくれ……ではな」
どちらが兄なのか、童子にぐいぐいと手を引かれていく青年をつつがなく、と見送れば、兎の神もぺこりと頭を垂れて我が家の方へと帰っていく。去り際に、また会いに来てほしいと巫女の言葉を代弁し、伍名も勿論また伺うよと頷いて。
 その小さな姿も茂みの中に失せれば、間もなくそこは、再び流水と葉擦れの調べが流れるのみの空間となった。何もかもが、無事……手元から離れて。
 一人取り残された伍名は、豊穣を宿す森を改めてぐるりと見回す。どこかで女達が笑う声が微かに、途切れ途切れに聞こえてきて、この広い空間に独りであることを心寂(うらさび)しく感じてしまった。
 (……御令孫、)
 ……本当は、もっと別に語りたいことが山とあったのです。
 と、伍名はそれを思い、けれども決して世に顕さず自らの内に収める。
 迷って迷って、語れなかった──巫女としても母としてもあれなかった、一人の女の話を。それをいつまでもいつまでも慈しんでいた、男の話を。
 「……」
二人は未だ奥社の一角に細々と在って、神罰の如く雷に穿たれた女は今なお健やかではない。
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