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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第24章 稲依姫
ただ黄泉から戻った巫女を新たな洞主にと──にわかにそんな話が奥社で持ち上がった時、男はすぐさま女と二人、そこを出て市井に降る道を選んだ。むしろもっと早く、潔く譲り渡すべきだったとも。
とはいえ、その形での奥社入りは巫女自身が断ったこともあって早々に立ち消えとなったが、男がその意思を変えることはなかった。男は男自身の幸せを得るために、その変わらぬ道を選んだのだ。
「……」
だが、二人の道は険しいだろう。何処(いずこ)の里に降るか隠遁するか、どちらにしても、今回の出来事は既にいくらかの形を変えて淡島の名もなき人々の口を伝っている。生活の糧を得るにも、必ず苦労がつきまとうだろう。
しかし、男自身はわずかばかり頼るつても残っていると一切の援助を辞退し、好いて選ぶ道だと只人(ただびと)になる準備を日々進めていた。ようやく人になれると、眉を下げながら笑っていた。
笑っていた。
──それをせめてもの慈悲に、語って、やりたかった。その、円ならぬ幸せの形も、知っていてほしかった──。
けれど──。
「……さて、……私も行こうか」
今度はそれを意図的に口にして、伍名もまた歩き始める。
とはいえ、その形での奥社入りは巫女自身が断ったこともあって早々に立ち消えとなったが、男がその意思を変えることはなかった。男は男自身の幸せを得るために、その変わらぬ道を選んだのだ。
「……」
だが、二人の道は険しいだろう。何処(いずこ)の里に降るか隠遁するか、どちらにしても、今回の出来事は既にいくらかの形を変えて淡島の名もなき人々の口を伝っている。生活の糧を得るにも、必ず苦労がつきまとうだろう。
しかし、男自身はわずかばかり頼るつても残っていると一切の援助を辞退し、好いて選ぶ道だと只人(ただびと)になる準備を日々進めていた。ようやく人になれると、眉を下げながら笑っていた。
笑っていた。
──それをせめてもの慈悲に、語って、やりたかった。その、円ならぬ幸せの形も、知っていてほしかった──。
けれど──。
「……さて、……私も行こうか」
今度はそれを意図的に口にして、伍名もまた歩き始める。

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