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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第24章 稲依姫
【3】
「……」
木々の上を、撫でるようになめらかな風が抜ける。上から眺める水の森は色づくものとそうでないものが混じり、荒妙(あらたえ)のようにごわごわとして雑多に見えた。人の世と同じだ。
そこにゆらりと一筋の煙が立ち、世界を半分に分かつ。同時に柑橘類を思わせる、どこか甘酸っぱさを帯びた匂いが空気に混じった。
未だ修復の途中で、完成の見えない朱の楼閣。その上階に、癖のある仕草で見目には艶かしく、煙管をふかしながら人を待つ一柱の神の姿があった。
月を眺めるに定位置となっているいつもの欄干、ただ強い日の光の下ではあの白銀の装いも透過せず、乳白色の尾長鳥が留まっているように見える。そしてその白き神は息をするのも億劫そうに、吸い口を唇に触れさせた。
本来ならばとうに寝ている時間。それに加えて自由にならぬ無意な時間には苛立ちも募り、いよいよ憂さ晴らしに階下に何か投げ捨ててやろうかと思い始めた頃、耳慣れた衣擦れの音が聞こえてきた。待ち人が、ようやく訪れたらしい。

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