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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第24章 稲依姫
 (私は……)
頭が朦朧としている。その中で唯一、はっきりと意識に残っていたのは、目の前が一気に色を取り戻した瞬間の、鮮やかな高揚感だった。
 真っ先に飛び込んできたのは微笑む男性の顔。小さな鏡に閉じ込められていた世界はその人の祝い詞(ことば)によって解放され、瞬きの間に無限に膨張した。
 『そう……私を拒んだあの方と同じ』
同じように、私にもまた、あれから過ごした時間が山とあったのだ。
 婚姻の初夜に妹と分かたれ、男に忌避されたあの女神はもういない。惨めに涙し、誰かを蔑み呪った女はここにはいない。私もまた──長い時を経て、変わっていた。
 劇的な変化ではなかったけれど──
 ただ、生まれながらの美醜を嘆くのでなく、誰かのために化粧を覚えたり髪をとかしたり、そんな少しずつの努力をいくつもいくつも重ねて、泣くことを減らし笑うことを増やしていった。
 私はもう、一人ではなかったから。
 心の傷が癒えるまで添い、心から笑える時を待ち続けてくれていた人がいたから。それを共に、楽しんでくれる人がいたから。
 綺麗になりたいと思った。楽しいこともしたいと思った。
 この人と一緒なら。
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