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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第24章 稲依姫
禊はあの日、目の前で奪われていったあらゆるものに対し、献身的に奉仕することを誓っていた。
自身の足の怪我は、伍名の処置のおかげで以前とほとんど変わらない。こういう雨の日などには多少ひきつったような感覚は出るが、立ち行かないものではなかった。それでも完治するまでの生活は片目の童と二人、苦労もあったが──それより何より、主や弟が負った心の傷の方が大きいのだから。もしも何もかもが自分の元に戻ってくれた時は、今より更に報いようと心に決めていた。
そしてその最たるものが、やはり……神依の髪だった。
だからいつも真っ先に指先が望む感触は、この絹糸のように細やかな、そして繻子(しゅす)のようにつややかな、深い墨色の髪。
(……今日も、お美しゅうございます)
墨はゆっくりと時間をかけて磨られた、漆黒の中にも色を見出だせるほど艶のあるもの。それに禊は決して口にしない賛辞を心で紡ぎ、一房一房、丁寧に櫛を通していく。
あまりのきめ細かさに零れ落ちてしまいそうなそれを幾重にも幾重にも背に流せば、本当に淀みない筆致で綴られた流麗な書に見えた。でなければ黒漆の艶。贅沢で、けれど幽玄を突き詰めたもの。
自身の足の怪我は、伍名の処置のおかげで以前とほとんど変わらない。こういう雨の日などには多少ひきつったような感覚は出るが、立ち行かないものではなかった。それでも完治するまでの生活は片目の童と二人、苦労もあったが──それより何より、主や弟が負った心の傷の方が大きいのだから。もしも何もかもが自分の元に戻ってくれた時は、今より更に報いようと心に決めていた。
そしてその最たるものが、やはり……神依の髪だった。
だからいつも真っ先に指先が望む感触は、この絹糸のように細やかな、そして繻子(しゅす)のようにつややかな、深い墨色の髪。
(……今日も、お美しゅうございます)
墨はゆっくりと時間をかけて磨られた、漆黒の中にも色を見出だせるほど艶のあるもの。それに禊は決して口にしない賛辞を心で紡ぎ、一房一房、丁寧に櫛を通していく。
あまりのきめ細かさに零れ落ちてしまいそうなそれを幾重にも幾重にも背に流せば、本当に淀みない筆致で綴られた流麗な書に見えた。でなければ黒漆の艶。贅沢で、けれど幽玄を突き詰めたもの。

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