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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第24章 稲依姫
 少なくとも十月(とつき)という長い時間を黄泉で過ごした感覚は無いというし、それは男神も同様で、こちらに至ってはどんなに長く見積もっても半月程度の放浪だったと語った。
 だからかこの一件は、特にものを書く連中の熱情と意欲を掻き立て、淡島の史料としても尾ひれのついた物語としても、着々と記し残されている。
 その中には後々当事者達が目にしたら身悶えしそうな、華を添えるどころか山と盛られた話も多いのだが、それはまあいい。
 ともかく──話を聞く限り、素戔鳴尊に拐われた後の暮らしは主に取ってはやはり幸いだったようで、その一点は禊も深く感謝していた。
 良き時ほど時間が経つのは早く感じるものなのだし、御霊を櫛に宿した女神を母とし、あの荒神を父とも慕い、敬い──そしてこちらに戻った途端にこれならば、きっと黄泉の神々は十二分に休息と安寧の時を与えてくれたのだろう。
 神依自身も櫛名田姫から贈られた羽衣だけは日々大切に身に纏い、また、朝の進貢では黄泉の神々に向けても花を手折り、捧げていた。

 ──しかし、髪に反して、炙られた体の痕は消えていなかった。
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