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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第5章 いざない
 この二人が、あらゆるものの父と母であることに少女の魂は気付いていた。たとえ血の繋がりが無くとも、彼らが男女一対の神々であることに気付いたときから、少女の魂は彼らの子として還っていた。
 だから少女は、そこでようやくその子が何であるか理解した。
 女神が最初に生んだ命は……水蛭子だったのだ。
 いつまでも成長しない子を、いつまでも淡いままの小さな光を、彼らは葦の小舟に乗せてそっと島の端から流した。
 それは少女のすぐ横を流れていったが、そこに何があるのか──少女は怖くて、中を見ることはできなかった。
 (お父さん……お母さん)
そう思えば、何故か少女の目に涙が滲んだ。
 ──辛い。悲しい。どうして。忌まわしい。怖い。一緒にいて。離れたくない。大好きだよ。分からない。ごめんなさい。本当は──
 それが彼らの気持ちなのか、水蛭子であった自分の気持ちなのかは分からない。呪詛(じゅそ)なのか、愛情の残骸なのかも分からない。
 ただそんな思いが流れ込んできて……ようやく後ろを振り向いた時には、その舟はもう本当に小さく小さくなってしまっていた。
 この海と雲の向こうには一体なにがあるのだろう。
 ……男神と女神も、それをずっと眺めていた。
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