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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第5章 いざない
 それは、少女が選択を迫られた瞬間でもあった。
 もう二人は並び立つことはできない。少女が一つの身で視ることができるのは、どちらかただ一人。
 それを少女が理解していたかは分からない。ただ少女の魂は“子”として、父が我が子を殺した瞬間に既に傾いていた。ただ少女の心は“女”として、彼女の悲哀に満ちた怒りを享受してしまっていた。

 ──だから嫌だと言ったのに。だから約束したのに。
 ──信じていたのに。あなたの優しさを信じていたのに。
 ──やはりこんな汚ならしい、穢れた身で愛を望むべきではなかったの? 罪だったの?
 ──だったらいっそ来なければ良かったのに。どうして分からないの。
 ──愛するあなたにだけは、こんな姿を見て欲しくなかったのに。
 ──だけれど私は、あなたのためならどんなふうにも変われたのに。
 ──ただ待っていてくれさえすれば、ただ待っていてくれさえすれば!

 終焉はそんな、砂をかき混ぜたような不快な音を空気と耳に残して訪れた。
 少女の頬に誰かの涙が伝う。
『──なぜ愛しき我が背が、私にこのような辱しめをお与えになるのですか』
少女の舌と唇が紡いだ震えた声は、もう少女のものではなかった。
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