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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第5章 いざない
 水の向こうの自分もまた同じように手のひらを合わせたが、互いにふれ合うことはできなかった。
 『悲しい思いを……怖い思いを、やるせない思いをさせてしまってごめんなさい。だけどあなたは……本当に、あの子が思った通りなのね』
「え?」
『ううん。それより、ほら』
「あ」
もう一人の自分が頬を撫でる仕草をして、少女は今更涙の跡に気付いてそれを拭った。それを見て、対の顔は柔らかく笑う。
『あんな私に寄り添ってくれて……ありがとう』
「……あの……、あの、でも、お父さんは?」
『もちろん居るわ。でも──今は高天原よりもずうっとずうっと高い場所。……あなたはもう分かるでしょう? あの方も一度は私を迎えにここまで来てくれたのだけれど、あの方は私がこんなにも美しくなることを知らずに去ってしまったの』
「……あ」
 その言葉に、少女は手を重ねたままもう一度背後の世界を振り返る。
 そこはただただ、命に溢れた美しい世界。
 朽ちた肉は地に還りまた生まれ変わる……それも、自然の摂理だった。くるくる回って戻るもの。繋がって一つになるもの。始まりも終わりもなくて、区別できないもの。分かちがたいもの。分けられないもの。
 だからこの世界は、丸いのだ。
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