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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第5章 いざない
 そしてそれを理解した瞬間、今は決してふれ合うことの叶わない両の手のひらから大きな波紋が広がる。
「──待って! 私、まだ──」
聞きたいことがたくさんあったのに。
 そんな少女の意思に反して、足元の水と砂がゆらりと歪み、あの真白の混沌のただ中に投げ出されたときのような不思議な浮遊感が体を包む。
 この世界のこと。
 神様たちのこと。
 この世界に住む人達のこと。
 巫女のこと。
 自分のこと。
 あなたが語ったあらゆること。
 まだたくさん──まだたくさん、聞きたいことがあったはずのに。
 手のひらが離れ、天地の感覚がなくなっていく。うっすらと青に染まる視界の中、少女は意味も分からずせめてこれだけはと、最後の問いを口にしていた。
「──お母さんは、私達のこと、嫌いじゃないよね……!?」
 けれど返事はもう聞こえない。耳に伝わるのは、水と波の音。
 まだたくさん聞きたいことがあったはずなのに──その中から無意識に出てきた言葉が紡ぎ終わるのと同時に、少女はどこかで見た青の世界に呑まれて、
(……お母さんの、お腹の中だ)
その温かく満たされた水の中で、覚えているはずもないのに……ただそんなことを、思った。
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