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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第5章 いざない
 相変わらず取りつく島もない男神に、神依はその曖昧な笑みすらどうしていいか分からず何となく腕の子龍を見る。優しい指先も真摯な瞳も、今は肩の朱印と記憶の中に残るのみになってしまった。
(……しょうがないよね)
少女の顔を見てキュウ、と鳴く子龍。咬まれないか少し怖かったが、指先で顔を撫でてやれば子龍はもっと、とねだるように頬を擦り寄せてくれた。可愛い。
 だがそれを眺めていた日嗣は、神依の意に反し──
「──彦。淡島への道を開け」
「は? 何だよ急に。まだいいだろ」
「いや……これのことで、洞主に幾つか話したいことができた。頼む」
「えっ……、私?」
何かを思い付いたように視線で神依を指し示すと、猿彦にその神威を求めた。
 猿彦は一瞬呆気に取られたようだったが、大きく口元に笑みを浮かべるとそれに一言分かったと答えて、台座の端まで歩み出る。
 日嗣はそれを見て、猿彦よりも神依と目を合わさぬよう波間の光に視線を落としてしまう──が、どんな些細な思い付きであっても、これは猿彦に取っては喜ぶべき出来事だった。
 もう長い間……本当に長い間、淡島の巫女達──ひいては女という存在に進んで関わろうとしなかった、この偉大で尊大な友垣。
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