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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~
第5章 いざない
 それが、どんな心境の変化があったのかは知れないが──わざわざ御自ら行幸(みゆき)して、この少女について語るという。
 それは、友として日嗣の心境を正しく知る猿彦にしか分からない喜びだった。
 今まで沢山の女達が、友の恵まれ過ぎた生まれや容姿に……時折垣間見せる無自覚の慈愛に胸をときめかせ、恋焦がれてきた。しかし女達がそれを求めれば求めるほど、友は自らの魂を閉ざしてしまう。どんな色にも香にも惑わず、愛の囁きにも恫喝にも耳を貸さず、今となっては毛嫌いすらしている。
 しかし……それを否定することは“命”を否定することと同じだ。
 神は神故に、ただ一人──男神であっても、依さえあれば器物からでも子を成せる。しかし本当はそうではないことを、国津神達は知っているのだ。まだちゃんと、覚えているのだ。
 『──神を語るには、酒と恋が必須だろう』
……そう語っていたのはその最たる長だが、もし友のその頑なな魂をほころばせるものができたなら……それは高天原から豊葦原まで、全ての命を満たす神威に転じる。日嗣の御霊はそれ程に、人や神の要となるものだった。
 それを、まだ何も知らない……幸いにも知らされていない、この清らな水のような巫女が成してくれたなら。
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