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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第6章 巫女として
 例えば目の前の男は、取っ組み合いになるような勝負ならば絶対に自分が勝つ自信がある見映え、体躯の“若造”だというのに──やはり人と神の差か、こういう時、こういう場面での存在感は尋常ではない。
 いや、そうでなくとも……この鋭利な男を前に据えると、どうしてだか人は皆頭を下げて、謝辞の言葉を述べたくなってしまうのだ。
 そしてその間、洞主は洞主でどのような会話が成されているか頭の端に聞き入れながらも、先に起きた一連の出来事を頭の中で反芻していた。
(御令孫の急なお召しといい、一体何が起きているというのか……。……さっぱり分からない……)
 ──あの時──あの暗がりの中。

***

 あの時、あの暗がりの中。
 やけに静かだとは思った。
 洞主の知る少女は、怖がりで人見知りで知りたがり。だから暗闇と未知の世界に恐怖して、慣れた自分にはいろいろ問うてくれるのだろうと思っていた。
 しかし少女は場の雰囲気に呑まれたのか、黙りこくったまま後ろをついてくるのみ。
 語ってはいけないと、脅し過ぎてしまっただろうか。
 けれども向かう先は神々に取っては穢れも同じ。一度祓(はらえ)の儀こそ行えど、巫女がそこに降りることを知ればそれだけで忌み嫌う男神も出てくるだろう。
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