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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第6章 巫女として
 かろうじて働く思考で、目だけを動かし暗闇を見渡す。
 そう、そんなはずはないのだ。だって自分は、振り向く瞬間まで少女の手を握っていた。握っていたのだ。しかし、しかし少女は消えた。
 ──ならば。
 ──ならば今、私は“何”の手を握っていたのだろう。
 それで肌が痛いほどに総毛立ち、洞主は弾かれたように来た道を引き返した。
 しかし後から、二柱の神に送り届けられた少女は平然と名を得て、また死後の世界……根の国から連れ帰ったように、龍の子を腕に巻いていた。そして自身の言い付け通り、中で何があったか、決して語ろうとはしなかった。

***

 「──玉衣様」
「……!」
ふと大兄の声に我に返った洞主は、直ぐに居住まいを正し日嗣に向き直る。
「……恐れながら、彼女をお使いになりたいと仰られるのは例の、“御霊祭”であらっしゃいましょう。貴方様が剣気にて穢れをお祓いになった水霊を、御自ら淡島の水の護りになさると──既に高天原より内示を頂戴し、私も調整を進めて参っておりますが」
「ならば話が早い。内、あれには巫女舞の一を舞わせたい。卦を見るに、幸い日も充分にある。今からでも仕込みは間に合おう」
「お……お待ち下され、巫女舞の一とは……!」
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