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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第6章 巫女として
 ただひたすら床に額を擦りそう述べる青年に、猿彦は静かに息を吐くとゆっくりと立ち上がる。
 童がすがるようにそれを目で追えば、表情の窺い知れない異形の神はその口元に笑みを浮かべていた。
「──チビ、神様が一番好く人間がどんな人間か知ってるか?」
「え……、ええと」
「それはな、何かにひたむきに向かい合って、それでもそれを誇らない奴だ。誰かのために、何かのために一生懸命頑張ってる奴だ。カッコ悪くても笑われても報われなくても、なんにもならなくても……それでも精一杯足掻いてる奴には、どんな高慢な神も敵わない。神は空を仰ぐ手には傲り、地をかきむしる手には膝を折る」
「……」
「──禊。お前はお前の魂もまた水であることを忘れんな。それを凍り付かせるには、お前の周りはまだあったか過ぎるだろ。それから、童」
「……はい」
「そんなカッコ悪い姿を見せられる相手がいることは、本当に幸せなことだ。だからお前はちゃんと、その両の目でお前の大事な人達を見ていてやってくれ」
「は……はい!」
勢いよく返事をして頭を下げる子に、猿彦は満足そうに頷き踵を返す。
 そして次の瞬間にはもうその姿をかき消し、二人が顔を上げた時にはただ一筋の風が景色を揺らすばかりだった。
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