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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第2章 神隠しの行く末
 しかし呂律も回らず、満足に返事すら出来ず──少女は苦しさを紛らすように、もう片方の手で下にあった布をがむしゃらに掴んだ。
 荒れた呼吸に体がきしみ、それに加えて右肩の辺りが酷く痛む。
 まだ上手く力が入らない体を奮い立たせておそるおそるそちらを見れば、霞む視界に何か異様な紋様が浮かんだ。皮膚の下にある血の道筋をそのまま辿ったような、線と色。
 あの蛇に咬まれた辺りだった。
「……っ!」
 思わず息を呑めば、ふとそこに黄とも緑とも言えぬ不思議な色合いの袖が滑る。
「──彦」
「……、おう」
 簡単な仕草で何かを示し、もう一人を遠ざける──男の手。
 やがてそれはその流れのまま、少女の肩をそっと撫でる。
「落ち着いたか。……まるで生まれたての獣の様相だな」
「……」
そこで少女は初めて、まるで押し倒されたかのようにこちらを見上げる……男の姿を瞳に映した。
 「──あ、……」
白砂に乱れる長い黒髪、その下に垣間見える柳眉と熟れた稲穂の色をした黄金の瞳。
 ただその目に捉えられただけで、少女は途端に体が熱くなるのを感じた。頭の中が白く焼け付き、それが度を越えた羞恥であることに気付くのに時間はかからなかった。
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