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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第2章 神隠しの行く末
 男は──美しかったのだ。ただそうとしか思えない。
 容姿の造形を称えるあらゆる言葉が男にはふさわしく、しかしまたそれが全てではなかった。纏う空気はなよやかなわけでもなく、光芒のように物言わぬ覇気を含んでいる。
 敢えて言葉にするなら、目の前に在る男は本当に“人”なのだろうか──という尋常ではない存在感。
 少女は自らその前に在ることを恥じ、また触れられていることに──全ての矜持がほころぶような、女としての喜びを感じて羞恥していた。
「……」
「髻華(うず)が痛む。いい加減手を離せ」
「──あ──」
 再び聞くその声に、いかに自身が男に見とれていたか察した少女は我に返ったように己の両手を交互に見比べた。手は男の衣を子供のように掴み、本当に自分が男を押し倒してしまっているように見える。
「ご……ごめん、なさい。本当に、ごめんなさい……!」
それで少女は頬を真っ赤に染めて、口の中で三度謝ると慌てて男の上から体を退けた。
「ん……っく」
 同時に肩からも男の手が離れ、忘れていた鈍い痛みと体の疼きが思い出される。むしろ男の手を離れたことで、せき止められていたものが再び流れ出してしまった気さえした。
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