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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第6章 巫女として
 そしてその日、その夜──その恋を求める最たる男神が、一柱の夜の神を訪ねその朱の楼閣に赴いていた。
 「──祭祀が終わり次第一度、その娘の元に降りようかと思っています」
「……国津神の長たるお前が直に、か?」
「ええ──猿彦が面白い話を持って参りましたので。元々、個人的に思うところもありましたし」
二柱の神々は各々に盃を傾け、一人は座敷に、一人は巨きな月を背にして欄干にしとけなく座っている。
 その後者の神の姿はどこか日嗣にも似て、しかし日嗣が黄金の装いなら彼は瞳にも衣にも銀(しろがね)を宿し、夜風に揺れる髪もまた、さながら海を行く魚(うお)のようだった。
「……成程。土を起こし肥ゆらせ、水を張って苗を埋ゆるはお前たち国津神の役目、か」
「いえ──個人的に申せば、色恋の無い人生など不毛だと。つまらぬと思っているだけです。一度や二度苗が枯れたとて、ならば三度植えればよいのに。人でさえ、我らより遥かに短い──刹那の時の中で幾度となく恋を願い、愛を乞い、その証として子を残すのに。その儚くも強き美しさを、天津神である貴方がたももっと尊重しても良いのではと」
「……相変わらず歯の浮くような物言いをする……。姉上には聞かせられぬ話だ」
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