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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第2章 神隠しの行く末
 (……もう、あの蛇はいない……)
しかし少女が二本の足で立つにはまだ頼りなく、自らを庇うように砂の上に座せば、対照的に男は砂から何かを拾い上げつと立ち上がった。
 その時に胸元の飾りが揺れ不思議な音を発する。翠や藍の勾玉が連なり、それがわずかに擦れ合って奏でられた楽のようだった。
 そういえば男は羽織に着物、袴と落ち着いた衣に反し、玉が連なる飾りをたくさん身に着けている。煌めきは無いが、静かな色の飾り。
 男は砂を払うと長い髪を無造作にひとまとめにし、手にした金の笄(かんざし)で器用にくくる。それで“うず”が何だか分からなかった少女は先程の言葉をようやく理解した。多分外れた髪飾りが押し付けられていたのだろう。着物も汚してしまった。
 しかしそれでも構わないよう更に衣や腰の剣(つるぎ)を正した男は、一瞥の後、いまだ地に添う少女に近付き立ちはだかった。
「立てぬのか」
「ご……ごめんなさい」
「それは聞き飽きた」
「んっ……」
男はあの若穂のような色の羽織を脱ぐと、少女の頭から背に被せて地に片膝を付く。そして指先で少女の顔に掛かる濡れた髪をどけ、目元を伝う薄い粘液を拭い取った。
「……怒っているわけではない」
「……」
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