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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
 その後ろ姿を、鼠軼と鼠英は毎日見つめていた。


【3】

 御霊祭の話が持ち上がってより、日嗣が頻繁に訪れるようになったその高天原の社殿はにわかに空気が色めいていた。
 元々、日常的に詰めるのはほとんどその社殿の主神を世話する女神や采女ばかり。社殿を警備する衛士や雑用をこなす下男なども居るが、彼らにも女達がいつにも増して華やいでいるのが分かった。
 しかし男達は男達で、その日嗣が自ら取り立てたという巫女の話で密かに盛り上がっている。
 神事と政を司る高天原でそんな話が許されるのは私邸かあの朱の楼閣の中だけであったが、集まる男神も日に日に増えて、件の巫女を酒の肴に、話に花を咲かせていた。
 他の巫女とは異なる漂着、一風変わった振る舞いと境遇。それは神々の膿んだ退屈を払い退けて、酒の席ともなれば多少の色を含んで更に興味を煽られる。
 何より今まで女を寄せつけなかった御令孫と縁を結んだ娘がどんなものか、それだけで既に手が出せない男神達も、話だけにはそそられた。
 無知と無垢、淫猥と清純、清らと穢れ。その巫女を語るにはいつだって、相反する言葉や善悪の思惑が交わり、ますますに彼女を異質な存在にしていく。
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