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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
 「──誰ぞ他に、好い娘はおらぬのか」
加えて日嗣がまみえたその社殿の主でさえそう宣うものだから、結局は人の世も神の世も変わらぬ、と日嗣は密やかに溜め息を吐いた。
 神事と政を終えいささか気を緩めていたその神は、そのとき十余りの女神や采女を侍らせ札遊びに興じていたから、御簾(みす)の向こうからもくすくすと悪意を含んだ笑みが漏れ聞こえてくる。
 「聞けばお前が取り立てたその娘、処女(おとめ)を禍津霊なんぞに散らされたとか。しかも既に、蛭(ひる)の子まで生んでおるそうじゃ。わらわの耳にも、よう色の着いた噂と人の悪どき願いが届きおる」
「ただの噂であり、ただの悪意です。そのどちらにも私が立ち会い、この目で真を見極めております」
「ふむ──お前の言うことは、信じよう。だとしても──だ。噂と言えども真を凌駕す勢いぞ。口にするにもおぞましき、蝿が集る腐物が如く厭悪(えんお)の念を集めておる。そんな穢らわしい娘なぞ捨て置け。お前には、わらわがもっと良き娘を用意してやる」
「……別に、嫁に貰うわけではありません」
「ほう! お前からその言葉が出るとは思わなんだ──何なら今ここで御簾を上げてしんぜようか? お前に相応しき女神や、見目良き采女もちょうどおる」
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