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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
御簾越しにも満面の笑みを浮かべているであろうことが分かるその神に、日嗣は一度向き直ると無言のまま頭を下げその場を後にする。
 神宮。ただその二文字だけで表される巨大な高殿(たかどの)、広大な社殿群は、日嗣の祖母──天照大御神が坐(ま)す、高天原でも最も特別視されるところだった。
 見上げれば、更に上天へと突き抜けるその社。そこに日嗣の気が休まる場所は無く、肉親としての寵愛も今は負担だった。
 「──孫」
そんな場所で、思わぬ耳慣れた声を聞いた日嗣は僅かに纏う空気を緩め、声がした方に振り向く。
「……彦。お前がこちらに出向いているとは、珍しいな」
「あー……」
かみさんにな、と少し言い辛そうに猿彦は続ける。
 ……ここが居心地の悪い場であることには二人とも変わりはない。日嗣はそんな場所で気の置けない友と出会ったことに少し安堵し、自身の居室へと足を向けた。

***

 「……あの娘のことだろう。気を遣わせてすまない」
「別にお前に気を遣ってる訳じゃないから気にすんな。まあ上も下も、ちょっとした騒ぎだけどな……」
そうしてその殺風景な部屋の、廻り縁に寄りかかりながら猿彦は言葉と共に下界を見下ろす。
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