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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
 その友の言葉に、猿彦は少し驚いたように顔を上げる。
 それは友の……神たる魂の、ほんの細やかな変化だった。
 神は空を仰ぐ手には傲り、地をかきむしる手には膝を折る。しかしそればかりでもなく──今の日嗣の言葉には神とはまた別の……生来“人”が持つ、慈しみが含まれているような気がした。
 日嗣が持つ、中途半端な魂のほころびとその神威。それは、人の手無くしては育たないものでもあった。
 「いや……そうだよな。そもそも神依は、お前がお前自身の手で絡め取った子だ。そしてお前が女として救い、お前が巫女として取り立てた。お前の好きにすればいい」
「……」
無言のまま頷く日嗣に、猿彦は再び自分にだけ見える雲海へと目を向ける。
 晩夏──初秋。御霊祭も近く、水の気が僅かに増している。高天原にも水気を帯びた風が吹き、日嗣の髪や猿彦の頭(かしら)を揺らした。
 「……」
思い出されるのは、もう一人の……水の魂を持つ人間。
「神依……、俺なんかに謝る必要ないのにな」
「……何の話だ?」
「いや……、あそこは禊もチビも、三人とも優し過ぎんなと思ってさ」
猿彦は、この祈りがとても薄情で哀しいものだと理解している。ただそれでも……だからこそ。
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