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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
 はっきりとそう言い切った神依に、大兄は少しの沈黙の後、ただ、そうか、と呟いた。
「それを覚悟というのだろうな。……分かった、もはや何も申しますまい。ただ……」
「?」
「……俺の弟分は、良き巫女に巡り会えたようだ。どうか……大事にしてやってくれ」
「……はい。……大兄さんも、来てくれてありがとうございました」
そうして大兄は、主のかつての姿に似た……まだ何も知らないその巫女に切ない笑みを浮かべ、礼と共に下げられた頭をいつかのようにくしゃくしゃと撫でると、言葉通り何も言わずに去っていった。
(みんな……見えないところで、心配してくれてたんだ)
神依は傘に隠されたその大きな背にもう一度頭を下げると、箒やバケツを抱えて神楽殿へと戻った。

***

 この夕間近の神楽殿は、稽古の中では最も神依の気の休まる時間帯だった。
 自分を除いては誰もいない、がらんどう。晴れの日は射し込む夕日と物悲しい蝉の声が染み渡り、曇りの日は流れる雲の影が光と闇を作り……今日のような雨の日は、止まったような時間と静寂が落ちてくる。
 「ふう……」
掃除を終えて道具を片した神依は、最後に自身の荷物をまとめて一人安堵の溜め息を吐く。今日も終わった。
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