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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
 外を見れば雨脚は強くなっているようで、玻璃(はり)にも雫が叩き付けられている。
 その雨音が反響する空間の真ん中で、神依は一人佇む。禊が来るまでの、細やかだけれど贅沢な時間。何も考えず、何もせずにいられる。
「……」
それに水の音は好きだ。心が落ち着く。
 「……?」
そんな中ふと何かの視線を感じてそちらを見れば、正面に坐す御神体……綺麗に磨かれた丸い鏡に、不思議そうな顔をした自分が映っていて思わず笑ってしまった。
 あの、花畑と川辺での出来事を思い出す。
 鏡のように自分の姿を借りたあの原初の女神は今……どうしているのだろう。あれからもずっと、見守ってくれているのだろうか。
 近くまで行けばまた何か語ってくれるかもしれない……と神依は鏡に向かいかけ、その瞬間、あることに気付いてびくりとその足を止めた。
(……っ)
鏡の前に、いつの間にか蜘蛛がいる。大きな女郎蜘蛛──。
 蜘蛛はじっと神依を見たまま動かない。ただ置物のように神依を見つめ、何かを待っている。
(……。違う……?)
少し怖かったが、神依はゆっくりとそれに近付いた。
 もしかしたらこの蜘蛛は、あの水霊や鼠軼と同じ──人の姿ではない神かもしれないと、思ったのだ。
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