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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
【5】

 朝からの雨は、夕近くになって人を遠ざけるようにその勢いを増した。
 そんな雨の中、禊は一人、傘をさして竹林の小路を歩む。否、一人ではなく──いつものように主から預かった子龍を連れていたが、その子龍は禊が持つ主の分の傘と、自らが広げる傘とを不思議そうに見比べて禊の腕を上下に往き来していた。
 広がって形が変わったのが不思議なのだろうか。禊である自分に、神の意図は計れない。童はよく子龍に話し掛けていたが、それは本来不敬なことだとたしなめたことがある。幼くとも、これは人智を越えた存在なのだ。それが許されるのは、同じ人智を越えた存在か、巫女や覡のみ。
 だから口を利くわけでもなく、ただ子龍の好きにさせて静かに奥社へと歩を進める。
 朝送り出す時の泣きそうな顔は、夕迎える時には笑顔になっている。自分の顔を見て、安心したように頬を緩める主が好きだった。並んで帰る、わずかな時間が好きだった。
 その間だけは禊は禊ではなく、ただ名が無いだけの一人の青年としていられる。

 進貢の広場まで来ると、水気の多いそこは早朝の雲海のように白い霧に覆われていた。
 さすがにこの雨では、どの巫女達もお喋りには訪れていなかった。良かった、と思う。
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