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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
 そのいかにも若い娘染みた要求にふっと苦笑すれば、同じ年程の神依はきょとんと日嗣を見上げる。
「……飴が欲しいそうだ」
「あ! 禊に貰った飴……」
その言葉に、神依は休憩時間に広げた飴の包みを思い出し、裳裾の隠しからそれを取り出す。
 そして包みを広げてやれば、蜘蛛はじっと数粒を見比べ……神依が後から食べようとわざわざ残しておいた、一番可愛い花柄の、桃色のものを抱きかかえるとすうっと姿を消していった。
 (……やっぱり、それが一番いいよね。……本当は、他のみんなとも、そんな話して、可愛いお菓子分けあって、過ごしたかった。……それをさせてくれて、ありがとう)
蜘蛛の消えた手を見つめ、その手にぽつりと落ちた涙に慌てて神依はその手を引いた。
 二人を繋ぐ細い糸がふわりと揺れて、日嗣の指先に残る。
「……すまない」
「何がですか? ──あ、今日は猿彦さんは一緒じゃないんですね」
「……四六時中、一緒にいるわけではない」
飴をしまう振りをして手提げの方に向かう神依を、それ以上問い詰めることもせず日嗣は見送る。背の向こうでその手が目元を拭うのを見て、罪悪感とも違う感情がぽつりと心中に浮かぶ。
 それでも、戻ってきた少女はもう笑顔だった。
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