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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第7章 兆し
***

 「あ……っ」
日嗣は半歩ほど後退り、反動で神依の方が床に投げ出される。崩された衣が羽のように広がり、裳裾から扇情的に足がのぞく。日嗣の前に、ふわりと甘酸っぱい、少女の香りが広がる。
 そのあられもない姿に恐々と、窺うように日嗣を見上げれば、日嗣もまた唐突に夢から覚めたような顔で、自身を見下ろしていた。
 鼓動は鳴り止まない。時折漏れる、色の余韻を含んだ息が恥ずかしい。雨音だけがそれを隠して室内に響く。
「ご……ごめん、なさ……」
それにかき消されそうなほど小さな声に、日嗣は頭を横に振り、少女を怖がらせないようゆっくりと跪き手を差しのべる。
「……すまない。……もう、何もしない」
「……」
 神依は何が何だか分からないまま、僅かに迷い……その手を見つめる。
 怖かったわけではない。……嫌だったわけではない。
 ただ、そうしてはいけなかったのだ。
 それを思い出して、同じ理由でその手を取ることはできなかった。
 そしてすぐにそれを取ってもらえないことを理解した日嗣は目を伏せ、差しのべた手を戻すと静かに呟いた。
「……お前が」
「……?」
「……お前が……俺のために、舞ったから」
「……っ」
その呟きは神依の頬を赤く染め上げ、冷めかけていた体の熱を呼び覚ます。
 そして、瞬時に理解した。
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