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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
 そして広場に在った誰もが、その広場の誰よりも高みにある神の……日嗣の姿を認める。
「──、」
その瞬間、広場中がほう、と甘やかな溜め息に包まれるのが神依にも分かった。左右の巫女からも、声に満たない歓喜の息がもれる。
 川から上がる白い空気が、宙に漂う白い靄が日嗣の足元を隠し、それはあたかも空より降臨した神の、墨絵を見ているかのような光景だった。白と黒とが織り成す美。
 しかしその男神は美しさだけではない──雨に潤う植物のような瑞々しさと、雫を弾く凛々しさをも纏っている。足元の色にも香にも媚びず、手折り難い──鋭利な葉、突き抜ける茎のような、あの毎日摘んでいた水穂のような佇まいで眼下の世界を見ている。
 (……綺麗)
その時、何かを促すように小さく、しゃん、と鈴の音が遠くで鳴る。
 それはこの場に残り端で控える、猿彦と彼が連れる稚児と伶人の方から聞こえてきた。
 見れば伶人が、その手の鈴をもう二回、鳴らしてみせる。それは美しい男神に見惚れる巫女の意識を呼び覚ますためのものだった。
 それで傍らの巫女らも我に返ったようにそちらを見、それを感じた神依は自分がすべきことを思い出して空気を整えるように一間置くと、その足を舞台となる石畳の方へと向ける。
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