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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
「……違う、何もない。神依様は……“舞わない”んじゃない。あれは、“舞えない”んだ」
「は……?」
今まで見たこともないほどに剥き出しにされた、兄貴分の静かな哀しみと怒りに、童はたじろぐ。
だが──次に聞こえてきた言葉にようやくこのあり得ない状況を悟って、主がどれほど辱しめられ、それを支えてきた禊がどれほど怒り悲しんでいるのか理解して……また自らも、殺意にも似た鋭い憤りを感じて目を見開いた。
諦めにも似たように、ただ淡々と禊が伝えた言葉、それは──
「これは……神依様が教えられた舞じゃない。……全く、別の舞なんだ」
***
「……」
一方、神依は一人、時が止まってしまったかのようにその場から一歩も動けなくなってしまっていた。
唯一動かせた瞳が、楽人達を映す。皆、何事もないように指を動かし音を奏でている。洞主を映す。洞主は何か苦心するように目を閉じ、また何かを考えている。猿彦を映す。どうした、と優しい声が聞こえた気がした。観衆を映す。皆、自分を見て何かを囁き合っている。
それで怖くなって、もう視線すら動かせなくなった。顔を隠すように下を見れば、足元には石畳の隙間から生えた雑草があった。
「は……?」
今まで見たこともないほどに剥き出しにされた、兄貴分の静かな哀しみと怒りに、童はたじろぐ。
だが──次に聞こえてきた言葉にようやくこのあり得ない状況を悟って、主がどれほど辱しめられ、それを支えてきた禊がどれほど怒り悲しんでいるのか理解して……また自らも、殺意にも似た鋭い憤りを感じて目を見開いた。
諦めにも似たように、ただ淡々と禊が伝えた言葉、それは──
「これは……神依様が教えられた舞じゃない。……全く、別の舞なんだ」
***
「……」
一方、神依は一人、時が止まってしまったかのようにその場から一歩も動けなくなってしまっていた。
唯一動かせた瞳が、楽人達を映す。皆、何事もないように指を動かし音を奏でている。洞主を映す。洞主は何か苦心するように目を閉じ、また何かを考えている。猿彦を映す。どうした、と優しい声が聞こえた気がした。観衆を映す。皆、自分を見て何かを囁き合っている。
それで怖くなって、もう視線すら動かせなくなった。顔を隠すように下を見れば、足元には石畳の隙間から生えた雑草があった。