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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
 禊の不器用な優しさも、童の贈り物も、洞主や大兄の気遣いも、猿彦の思いやりも……日嗣との時間も。
(……全部、全部、全部、全部、全部……駄目にした。私が……裏切ってしまった)
 応えられなかった。
 脳裏に、桃色の飴が思い浮かぶ。水晶の勾玉が思い浮かぶ。小さな神々の、小さな祈りが思い浮かぶ。色の着いた爪先が思い浮かぶ。大きな手が思い浮かぶ。蜘蛛の糸が思い浮かぶ。椿の花が思い浮かぶ。死ぬ間際の、龍の真黒い瞳が蘇る。自分を見つめる、黄金色の瞳が蘇る。
 「──…っ」
その瞬間、もう押し留めようもなく涙がぽろぽろと溢れてきた。
 最後の最後で、神依の中にあった何かは崩れて呑まれてしまった。
 遠くから見ている衆人達でさえそれに気付く程の涙を流し、ひとりぼっちの少女は小さく震える。
 日嗣も禊も、童もそれに気付いて──またそれがどれほどの思いを含む涙だったか、正しく理解できたのは彼らだけだった。
 そしてその少女の、力を失った指先から神楽鈴が落ちる。
 それは何に遮られることもなく宙を踊り──玻璃が割れたような、悲鳴にも似た音を響かせ、地面に転がった。
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