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恋いろ神代記~縁離の天孫と神結の巫女~(おしらせあり)
第8章 神として
日嗣の苦々しい想いを理解する猿彦は何事も無かったかのようにそう言うが、それもはなから期待されていなかったようで……日嗣は己の無力さに、憤りに似た悔しさを覚えた。
「──いやああぁっ!!」
そしてそう思った瞬間、それを音にしたような凄まじい金切り声が背後で発せられた。振り向けば、神依と神楽鈴、そして蛟を残し、池の周りにあった他のものはことごとく黒く渦を巻く雲海に呑まれている。
それはもちろん、そこにいた左右の巫女も例外ではない。否──ひとりはその細い指先で神依の足元にすがり付き、必死で助けを求めていた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!! 許して──お願い、謝るから──許して、助けてェエッ!!」
目を見開き、歯を鳴らし……顔面を恐怖と涙とに歪めた巫女の体を、あの黒いどろどろとした液体が這う。それは雲海の水の中から染み出して、蛭(ひる)のような触手となり巫女の体を下へ下へと引き摺り下ろしていった。
……その黒い何かは、あの日海の中に見たものと似ている気がした。
「……ッ」
(神依……まさか)
日嗣は一瞬それを思う。
ずっとずっと……この一月の間に神依が心の底に溜めていたもの。
「──いやああぁっ!!」
そしてそう思った瞬間、それを音にしたような凄まじい金切り声が背後で発せられた。振り向けば、神依と神楽鈴、そして蛟を残し、池の周りにあった他のものはことごとく黒く渦を巻く雲海に呑まれている。
それはもちろん、そこにいた左右の巫女も例外ではない。否──ひとりはその細い指先で神依の足元にすがり付き、必死で助けを求めていた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!! 許して──お願い、謝るから──許して、助けてェエッ!!」
目を見開き、歯を鳴らし……顔面を恐怖と涙とに歪めた巫女の体を、あの黒いどろどろとした液体が這う。それは雲海の水の中から染み出して、蛭(ひる)のような触手となり巫女の体を下へ下へと引き摺り下ろしていった。
……その黒い何かは、あの日海の中に見たものと似ている気がした。
「……ッ」
(神依……まさか)
日嗣は一瞬それを思う。
ずっとずっと……この一月の間に神依が心の底に溜めていたもの。